2005年04月04日

あるバーの不思議な話

私がよく行くバーのひとつに「ジェニーズ・バー」がある。
「ジェニー」は経営者のおばちゃんのイングリッシュ・ネームである。
さほど大きくはないフロアに長いカウンターがあり、生ビールやカクテルが飲める気楽な店だ。
気さくなおばちゃんが経営していて、スタッフの女の子も愛想がよいので、居心地がよい。
場所も上海の都心部で便利なので、ここ何年か時々顔を出している。

ただ、基本的には欧米人をターゲットにしたバーなので音楽が騒がしく、静かな店が好きな人には向かないが、茂名路のバーのような乱れた雰囲気がなく、また、売春目的の女性が出入りするようなこともない。ジェニーがいつも店に居て管理しているからである。
ドラッグの類にも縁のない、一言で言えば健全な店である。

経営者のジェニーは上海で生まれたが、高校を卒業したのがちょうど文化大革命の時代だったので、政府の命令によって上海近郊の農村に強制的に転居させられた。
彼女の父親は、中華人民共和国の成立前、自分で小さな商売をやっていた。
そのせいで、共産中国成立後には、いわゆる「出身階層が悪い」(つまり、「資本家階層に近い」ということ)という理由で、娘のジェニーが農村に追いやられたのだ。
その後、文革が終わり、社会が安定し、改革開放政策が実施され、外国人が上海にやってくるようになった。
ジェニーも上海に戻ってきた。
この店を始めたのは10年ほど前で、最初は別の場所で開店した。
ちょうど上海に外国人が増え始めた頃で、同種の外国人向きのバーも少なかったので、繁盛した。
一日にバドワイザーやハイネケンが何ケースも空き、空き箱が店の裏に積み上げられた。
その後、今の場所に移り、一時ほどの繁盛ぶりはないもの、ここ何年か経営は安定している。

先日、8月30日の午前中、誰も店にいないときに、ジェニーズバー店内の壁面を這っている幹線電気ケーブルが漏電し、長さ1メートルくらいにわたって炎上した。
炎は溶けたケーブルの被覆と一緒に落下し、ちょうど下にあった店内音楽用のミキサーの上に落ちた。
幅50センチくらいのミキサーはプラスチック製だったので、真っ黒焦げになり、溶けて原型を留めていない。
ミキサーのすぐ横にはカーテンがあった。

昼過ぎ、開店準備のためにジェニーが店に入ったとき、店内には煙が充満していた。
驚いたジェニーは厨房に駆け込んだが、そこには火が燃えた痕跡はなかった。
店の中を探し回って、ついに炎上箇所を見つけたが、そのときには、すでに炎は消えていた。
カーテンにも燃え移っていなかった。

情況から言って、自然に炎が収まる理由は見当たらない。
ジェニーは、神仏の加護があったのだと思った。
炎上した場所のちょうど正面の壁には、中国式の小さな仏壇が作りつけられていた。ジェニーは毎日開店前にこの仏壇に果物を捧げて商売繁盛をお願いしていたのだ。

すでに火災の危険がなくなっていることが確認できたので、少し気持ちが落ち着いたジェニーは、電気工事会社に連絡をしたあと、窓を開けて店内の換気をおこない、ともかく開店の準備を始めることにした。
ついでに、猫の食事の準備を始めた。このバーでは、拾ってきたトラ猫を店内で飼っている。
この猫、拾われてきた当初は生まれたばかりの子猫で、栄養失調で死にかけていた。
自分では水も飲めないほど衰弱していたので、ジェニーが毎日注射器でミルクを喉に流し込んでやった。
そのうち徐々に体力を回復し、いまでは立派なメスの成猫である。
名前は「生生」(shengsheng)という。
一度死にかかった猫なので、ジェニーがそう名づけた。

この日、ジェニーが夕食をやろうと「生生」に近づいたとき、その後ろ足が何故か真っ黒になり、毛が焦げていることに気づいた。
これって、どういうことなのだろう?






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posted by 陳ゆう at 00:18 | 雑記帳 異聞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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